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『どですかでん』(黒澤明映画第24作品あらすじと解説):黒澤明監督初のカラー作品

1970年(昭和45年)10月31日に公開された映画『どですかでん』。

色彩を楽しめる、黒澤明監督初のカラー作品です。

この記事では、黒澤明監督の24番目の作品となる『どですかでん』をご紹介します。

「どですかでん」 あらすじ

近所の空き地で遊ぶ六ちゃん。空き地で六ちゃんはエアー電車の運転手となり、妄想の中で電車の運転をしています。

そんな六ちゃんは、実は知的障碍児です。六ちゃんの住む場所は、とある街外れの貧困地域。

この地域で、六ちゃんは自分を本当の電車運転手だと思い込み、毎日電車の運転に忙しく過ごしているのです。

乞食の息子は、毎日毎日、父親から実現しないに決まっているマイホームについて話しかけられています。

サラリーマンの島さんは、温厚な性格。ある日同僚を自宅に招きます。

妻の島さんへの態度が悪いことを、見かねた同僚がたしなめますが、島さんは何も言いません。

内職職人の良太朗は子沢山で、自宅には多くの子供たちがいます。

実は、良太郎の妻は浮気性です。子供の全てが良太郎の子でなかったとしても、良太郎はどの子にも愛情深く接します。

この地域の住人達は、ちょっと変わっています。

そんなこの地域で、六ちゃんは今日も電車の運転に精を出しています。どですかでん、どですかでん…と。

「どですかでん」は、四騎の会の制作です。

 

『どですかでん』の原作は山本周五郎の「季節のない街」

 

黒澤監督は、木下恵介さん、市川崑さん、小林正樹さんといった監督に声をかけ、「四騎の会」を結成します。

この会のコンセプトは、低予算で映画を撮るということでした。

この「四騎の会」が手掛けた最初で最後の作品でもあるのが、この「どですかでん」です。

カラー作品の撮影は、長年黒澤監督が拒否してきたものです。

理由は、思ったような色がうまく出せないというものでした。

色合いにこわだってしまい、何と地面にまでペンキを彩色したというエピソードがあります。

黒澤監督の作品の中には、メルヘン的要素を含む作品がいくつかあります。

有名なものとしては、「素晴らしき日曜日」でしょう。

今回の「どですかでん」は、それまでの黒澤監督のメルヘン的要素を含む作品の集大成ともいえる代表作となりました。

前作は「赤ひげ」でした。

この『どですかでん』は「赤ひげ」同様山本周五郎さんの小説を原作としています。

貧困層の底辺が住むと言われている貧民街での人々の生き様を、8通りのストーリーをからめながら描いています。

内容は実に残酷で現実的です。

人間の本質が垣間見れる内容ですが、どこかでふっと笑みがこぼれ、心が癒されるような完成度となっているところに、黒澤監督ならではの息遣いが聞こえてきます。

登場人物は、かつての黒澤映画には登場しなかった個性が強すぎる人々ばかりです。

残酷かつ過酷な生き様を、切迫感あふれる中でのユーモアで丁寧に描いています。

黒澤監督は、かつて助監督時代に、エンケン主演の喜劇を数多く担当していました。

今回の作品では、漫才界から三波伸介さん、小島三児さんといった喜劇役者が登場します。

どの配役も、役者の個性を十分に引き出しています。

 

前衛映画としての『どですかでん』

個人的な感想ですが、この作品は前衛映画と称して構わないと思っています。

ストーリーの切なさ、哀しさ、衝撃の大きさもさることながら、テンポ良いセリフの流れも、随所に見られるユーモアも、色合いを楽しめる画像も、全てにおいて黒澤監督が抱くヒューマニズムの頂点と評価されています。

人間の本質的な部分を描いた点では、他の作品は到底及びません。

黒澤監督と言えば、「七人の侍」「隠し砦の三悪人」「用心棒」のメガホンを握った監督です。

あの黒澤監督が、このような前衛映画を作ってしまった。

そのことが衝撃的です。

まるで、海外で活躍するラース・フォントリアー、ビンセント・ギャロ、レオス・カラックスが撮影した映画を観ているのと同じ気分になるのです。

感性よりも、表現に注目が集まってしまいます。それほど、表現の尺度が広いのです。

冒頭のオープニングテーマ、武満徹さんの姿がとても切なく、さらに愛らしく、そこだけでノックアウトされてしまう勢いです。

知的障碍の六ちゃんから発せられるオーラがものすごいだけでなく、この地域に住む人達自体も、常識の範疇から外れた方達ばかりなのです。

常識の範疇外なので、何でもありのようです。その中でも、交わされるセリフが高レベルで、独特の世界観と空気を醸し出しています。

その風景を、彩り豊かな画像に封じ込めたのが、この「どですかでん」です。

この作品の内容は、他の黒澤監督の作品と唯一違う点があります。それは、あまりにもモラルのない男女が登場することです。思わず人間性を疑いたくなります。

娘を妊娠させてしまうどうしょうもない父親。

浮気相手の子供を産み、自分の夫に何食わぬ顔して育てさせる母親。

夫婦交換を行う男女。

妻の不貞を許せない夫。

他にも、苦しむ我が息子を見殺しにしてしまう乞食の父親。

そして、毎日エアー電車を運転することに精を出す六ちゃん。

性的なシーンはありませんが、今までの黒澤監督作品の中で、観ていて一番つらくなる内容のように思います。