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『赤ひげ』(黒澤明映画第23作品あらすじと解説):黒澤監督が三船敏郎が最後にコンビを組んだ作品

1965年(昭和40年)4月3日に公開された映画『赤ひげ』。

黒澤明監督が三船敏郎とコンビを組んだ最後の作品です。

この記事では、黒澤明監督の23番目の作品となる『赤ひげ』をご紹介します。

映画『赤ひげ』あらすじ

3年間、長崎で蘭学を学び、幕府の御番医となることを夢見て江戸へ戻った青年、保本登(加山雄三)。

父の命により、貧民のための診療所小石川療養所へ立ち寄るのだが、思いもよらず、この療養所で働くことを言い渡される。

さらに、療養所の所長「赤ひげ」こと新出去定(三船敏郎)からは、長崎で学んだ蘭学の資料を提出するよう言われる。

まさかの事態に憤慨し、反発する保本。

しかし、やがて赤ひげの豊富な知識と経験、深い愛情に触れることで、自身の未熟さを恥じ、思いを新たにして真の医療者として成長していく。

 

映画『赤ひげ』の解説

 

1965年春に公開された「赤ひげ」。

原作は時代小説家として知られる山本周五郎の「赤ひげ診療譚」である。

庶民の暮らしを描いた山本作品の中でも傑作と名高い小説だ。

黒澤にとっては23本目の監督作品となる。

黒澤・三船コンビ最後の作品でもあった。

時代は江戸、貧しい病人たちのために設立された無料の診療所「小石川療養所」が舞台だ。

享保の改革によって作られたこの療養所の所長を務めるのが、三船敏郎演じる赤ひげこと新出去定。

主演はこの三船だが、ストーリーは加山雄三演じる新参の弟子・保本登の目線で進んでいく。

原作はオムニバス形式なっているのだが、黒澤はそれらのエピソードを巧みに組み合わせて、一つの群像劇に仕上げている。

漫画界の巨匠・手塚治虫のほか、赤塚不二夫、石之森章太郎など、戦後日本に大きな影響を与えた作家たちの中には、黒澤明の熱狂的ファンが多い。

劇画に影響を与えたと言われる「用心棒」をはじめ、黒澤作品の脚本、カメラワークは一流と言われる芸術家にさえも憧れを抱かせるのだ。

本作品でも、現代漫画の中でよく目にするシーンは多い。二木てるみ演じるおとよが壁を凝視する場面では、彼女の目にだけスポットがあたるのだが、このような印象的な技法はその後も頻繁に使われてきた。

白黒映画であるにも関わらず、見る者にドラマチックなショックを与えるのは、黒澤監督の凄みと言えよう。

主人公の三船敏郎は、本当にひげを赤く染めたと言うし、色彩へのこだわりは徹底している黒澤明は女が描けないと言う評論家もいるが、この映画に出てくる女性たちは、皆人間味に溢れている。

桑野みゆきや根岸明美、二木てるみなど、それぞれの役どころに釘付けになってしまうのだ。

加山雄三が演じる保本登の母親役には、あの田中絹代がキャスティングされているのも注目だ。

 

『赤ひげ』の人間力

 

三時間という長尺ながら、飽きさせない作品。

黒澤映画では常連の藤原釜足演じる末期ガンの老人や、家族のために盗みを繰り返す少年など、悲壮感漂うエピソードが散りばめていながら、なお生きることの美しさや尊さを感じさせてくれる。

三船敏郎の貫禄の演技も圧巻だ。

特に印象的なのは、やはり二木てるみ演じるおとよだろう。

心に闇を抱え、固く心を閉ざしていた おとよが少しづつ心を開いていく過程は素晴らしい。

また、長坊役の頭師佳孝の演技も忘れられない。

おとよと長坊が心を通わせるシーンには、熱いものがこみ上げてくる。

物語の冒頭では、療養所になじめず自暴自棄になっていた保本が、最後には金や名誉を捨て、療養所に留まることを決意する。

「力ずくでも残ります」というセリフは清々しかった。

次の「赤ひげ」として弱い人々を助けていく彼の姿が想像できるようだ。

赤ひげの人となりに、少しでも近づきたいと思ったのは、きっと保本だけではないはずだ。