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『天国と地獄』(黒澤明映画第22作品あらすじと解説):その後の刑事ドラマに多大な影響を与えた名作

1963年(昭和38年)3月1日に公開された映画『天国と地獄』。

その後の刑事ドラマに多大な影響を与えた名作です。

この記事では、黒澤明監督の22番目の作品となる『天国と地獄』をご紹介します。

映画『天国と地獄』のあらすじ

 

製靴企業「ナショナルシューズ」の常務・権藤金吾の一家は、丘の上の瀟洒な屋敷に住んでいます。

ある日、彼のもとへ、子供を誘拐した、という電話が入ります。

ところが息子はすぐに帰ってきます。実は、さらわれたのは運転手の青木の息子でした。

というのも、常務の息子と、運転手の青木の息子が一緒に遊んでいて、服を取り替えたため、犯人が間違ってしまったのです。

犯人は自分の間違いに気づきますが、そのまま身代金を要求します。警察が呼ばれ、隠密に救出活動が始まります。

運転手も、権藤の妻も、身代金を支払ってくれるよう、権藤に頼みます。

しかし、権藤にとって、手元にあるお金は、自分の野望を実現するために必要不可欠なものでした……。

 

映画『天国と地獄』が制作された時代背景

 

この作品は、アメリカの推理作家エド・マクベインの87分署シリーズの一作「キングの身代金」を元にしています。

しかし、映画を観たあとで、当の小説を読むと、少し肩透かしを食わされたような気になります。

映画は小説の一部を借りただけで、かなりの部分が造り上げたものだからです。

構成は大きくふたつに分かれています。

前半は、子供が誘拐され、身代金を払って、子供が戻るまでのサスペンスドラマです。

後半は、犯人を追跡して捕まえる警察ドラマです。

当時は、誘拐事件に対する刑罰は軽いものでした。

そのことに対する批判が映画を作った原動力のひとつとなっています。

後半、刑事たちは、容疑者が殺人を犯した証拠が出るまで、彼を泳がせます。

そうしないと、誘拐だけで捕まえては、あまりにも軽い刑ですまされてしまうからです。

そうした批判精神が功を奏したのでしょうか、その後の刑法改正で、身代金目的の誘拐については厳罰化がなされています。

シナリオを担当したのは、小国英雄さん、菊島隆三さん、久板栄二郎さん、黒澤明さんの4人です。

綿密な構成と見せ場によって、観客を物語の世界に引きずりこむことに成功しています。

また、菊島隆三さんが「靴職人からたたき上げて、企業のトップまで上り詰めた役は三船敏郎のイメージにマッチする」と言うように、主演の三船敏郎さんが非常にうまく映画にはまっています。

 

映画『天国と地獄』のこそ本物の刑事ドラマだ!

 

何度観ても、密度が濃くおもしろい映画です。

昨今の粗製乱造される警察ドラマに爪の垢を煎じて飲ませてやりたい、という映画です。

自分の野望を実現できるかどうか、一世一代の勝負時だというのに、誘拐事件が起きます。

身代金にお金を使ってしまえば、自分は破産し、もちろん野望どころではない。

貧乏になってもいい、と妻は言います。「お前は貧乏を知らないからそんなことを言うんだ」と権藤は吠えます。

この三船敏郎さんがいいんです。

存在感が半端ないんです。

貧乏から成りあがった男の精気をギラギラと発散させています。

だからこそ、野望を犠牲にしてでも子供の命を救おうとする行動に感動を覚えるのです。

身代金受け渡しのときに彼は叫びます。

「この金はおれの命だ!」

いやあ、三船さん、いいですねえ。

さて、後半はがらりと雰囲気が変わって、刑事たちの捜査のドラマです。

普通、話がガラッと変わるとバランスがおかしくなるものですが、この映画はそのあたりも上手く抑えて描いていると思います。

息子を救出して一安心し、「おれたちは犬になって犯人を追うんだ」というようなことを仲代達矢さん演じる刑事がハッパをかけ、警察は本腰入れて捜査を開始します。

倦怠感のただようバーのシーンや麻薬受け渡しのシーンなど、好きな場面はたくさんあります。

そして、なんといってもラストの強烈な終わり方がいいです。

観る者に安らかにして終わるためのエピローグなどはありません。

こういうショッキングな終わり方というのもあるんですねえ。

この物語で、権藤は自分の野望を実現することはできませんでした。

しかし、それとひきかえに、成り上がるだけではない人間としての成長を勝ち取ったと言えるでしょう。

白黒の昔の映画が、いまだにおもしろい、というのは凄いことだと思います。

興味を持たれた方は、ぜひ一度ごらんになってください。