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『椿三十郎』(黒澤明映画第21作品あらすじと解説):三船敏郎の神レベル殺陣が光る最大のヒット作

1962年(昭和37年)1月1日に公開された映画『椿三十郎』。

三船敏郎の神レベル殺陣とコミカルなキャラクター設定が見所の映画です。

この記事では、黒澤明監督の21番目の作品となる『椿三十郎』をご紹介します。

映画『椿三十郎』のあらすじ

 

真夜中、廃墟と化した古い社で密談している若い侍たち。

「次席家老の汚職を城代家老に告げたが全く取りあってくれない」という仲間の言葉に一同落胆する。

が、その話には続きがあった。「大目付が一緒に立ち上がってくれる」と言うのだ。

落胆から一気に湧き上がる侍たち。そこへ大あくびで登場する流れ者の浪人。

奥で寝ていたところ、侍たちの密会で目が覚めたのだと言う。

「大目付こそあぶない」と言う浪人の言葉に反駁(はんばく)する若侍たちを嘲笑うように、大目付が放った手下たちによって社は取り囲まれていた。

自分たちの迂闊(うかつ)を悔やむ間もなく窮地に陥った侍たちを尻目に、浪人は一人で大目付の手下たちを蹴散らした。

そんな仕打ちを受けたにも関わらず、怯むことなく大目付に立ち向かおうと躍起になる若侍たちにいったんは愛想をつかした浪人だったのだが・・・

 

『椿三十郎』は『用心棒』のコミック判?

 

「椿三十郎」椿三十郎は黒澤明監督作品「用心棒」の続編として制作された映画だが、原作は山本周五郎の小説「日々平穏」である。

なので、厳密に言えば前作の用心棒とは何の関わりもないのだが、主人公の椿三十郎は前作と違って名字が変わったものの同一人物として描かれている。

用心棒の原作がハードボイルだったのに対して、椿三十郎は人情物で喜劇要素が強い。

そうした要素も手伝ったのか、この作品は数ある黒澤作品の中でも最大のヒット作となった。

当時の黒澤監督は「七人の侍」をはじめとして、リアルな時代劇を追求していた。

用心棒を経てこの作品では更にリアル志向が高まり、人情物であるにも関わらず立ち回りの場面では刀がぶつかり合い、肉が斬られる激しい効果音や飛び散る血飛沫(ちしぶき)が描かれている。

この作品以降、チャンバラ映画と呼ばれる時代劇映画が数多く作られたが、その多くが黒澤監督の手法を真似ている。

椿三十郎は2007年に織田裕二主演でリメイクされた。

手がけたのは角川春樹で、制作総指揮を執った角川は黒澤チームのオリジナル脚本に一切手を加えていない。

「興行収入40億円は最低ラインの目標」と語り、そこからどこまで伸ばせるかに勝負をかけた角川だったが、興行収入11億円と結果は振るわなかった。

映画を取り巻く時代背景の違いもあるだろうが、全く同じ脚本でありながら大ヒット作に仕上げた黒澤監督の手腕が勝っていたとしか言い様がない。

 

豊かな感性を呼び起こすセリフに影響をされる

 

「そいつは眉唾物だな」冒頭の椿のセリフです。

現代人の我々にとっては「眉唾物ってなに?」とすぐにはピンとこない言葉ですよね。

「岡目八目」に至っては頭の中で?マークの渦が生まれる始末でした。

いちいち辞書検索しなくては分からないけれど、意味が分かれば「なんて小粋な」と納得できるセリフの数々。

日本語の豊かさを改めて実感しました。

「ヤバい」だの「カワイイ」だのといった一語で全て片づく現代人のボキャブラリーの低さをちょっとばかり憂いてみたり・・・

「仁義なき戦い」を見た後、ちょっと広島弁を使ってみたくなる男子は多いと思うのですが、それと同じで胡散臭い話に「それ、眉唾物やな」と返してしまう自分がいましたね。

影響大きい!黒澤映画に欠かせない役者・主人公を演じる三船敏郎の殺陣は鳥肌ものです。

前作の用心棒も凄かったけれど、この椿三十郎では更に凄みをましてもはや神の領域に入ったとしか言いようのないレベルです。

特別派手、という訳でもないのですが、映画的なエンタテインメント性あふれる立ち回りなのに、本物の喧嘩を見ているかのようなリアル。

計算し尽くされた演出のはずなのに超自然。

特に椿三十郎が冒頭、古びた社殿から敵の真っ只中にガガっと出てくる場面は圧巻です。

思わず何度もリプレイしちゃいました。

殺陣のシーンと対極的なのが映画全体に流れるユーモラスな描写でしょうね。

黒澤監督が笑いを取りに行っているとしか思えないシーンの数々もこの映画の見所です。

他の作品でもユーモラスなシーンはあるのですが、椿三十郎は編集のテクニックを駆使して笑いを取りに行ってます。

笑いというのは時代に翻弄され、笑いどころやセンスという部分は最も繊細な一面を持っていると思います。

同じネタでも時代が少し変わればウケたりスベったりするものです。

実際、他の黒澤作品を見ていて「この笑いはちょっと」と古臭さを感じることが結構あるのですが、椿三十郎はその点でも別格ですね。

個人的には「時代劇」でも「人情物」でもなく、「高品質コメディ映画」のジャンルに堂々殿堂入りさせました。