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『悪い奴ほどよく眠る』(黒澤明映画第19作品あらすじと解説):黒澤プロ設立後に初めて公開した作品

1960年(昭和35年)9月15日に公開された映画『悪い奴ほどよく眠る』。

監督が東宝を退職した後に設立した、黒澤プロ第一弾の作品です。

この記事では、黒澤明監督の19番目の作品となる『悪い奴ほどよく眠る』をご紹介します。

映画『悪い奴ほどよく眠る』 あらすじ

土地開発公団の副総裁である岩淵の娘、佳子と、岩淵の秘書である西の結婚式が盛大に執り行われた。

岩淵は建設会社との汚職を疑われている最中であり、噂を聞きつけた新聞記者たちが大勢集まっていた。

ケーキ入刀で佳子と西の元へ運ばれてきたケーキは、公団のビルの形をしていた。

ビルの7階部分には、鮮やかな赤いバラが突き刺さっていた。

公団ビル7階と言えば、5年前のある日、公団の課長補佐 古谷が自ら命を絶った場所だった。

晴れの日に、なぜこのような意味深なケーキが登場したのか。

岩淵と、当時を知る部下たちは、言いようのない不安感に襲われ動揺してしまう…。

 

映画『悪い奴ほどよく眠る』とは

 

当時の東宝は、黒澤明監督を辞職させようとしていました。

理由は、「隠し砦の三悪人」が予算オーバーという展開になったためです。

しかし、黒澤監督の作品はとても儲かるため、手放したくないのが本心でもありました。

黒澤監督は独立プロダクションを設立しようとしていました。

独立した方が、しがらみがなく自由に映画作りに没頭できるからです。

東宝は、以降の黒澤監督の作品の配給を全て東宝が行い、資本金や製作費、利益を分配すること条件に、新たに黒澤プロダクションを設立したのです。

その記念すべく第一弾作品が、この「悪い奴ほどよく眠る」です。

黒澤監督は、独立したことで儲け主義となったと世間に思われることを嫌い、あえて社会性の強い内容の作品を手がけました。

しかし、気負い過ぎたせいか、今までの作品以上に脚本作成に難儀しました。脚本完成までに実に3か月を要したそうです。

脚本の構成は、5人で行われました。

今までも黒澤監督作品の脚本チームに参加していた菊島隆三さん、小国英雄さん、橋本忍さんに加えて、「我が青春に悔いなし」「白痴」以来の登場となる」久板栄二郎さんが参加されています。

橋本忍さんは後に自伝を出版しました。その中で、当時を振り返り、

「私の参加は不遜で一方的だった。仕事にあてるスケジュールは2週間。その代わりノーギャラ。脚本料なしの極端の責任の軽い身勝手である。」と語っておられます。

作品は非常に重い内容ではありますが、要所要所に娯楽性も感じられます。全体的に面白い作品に仕上がっているように思います。作品テーマは、「汚職」。このテーマ自体は、作品当初から年数を経た現在の視点から考察しても、1㎜もズレていないのが特徴です。

当時も、2000年代の現在の日本も、汚職列島なのは相変わらずです。

日々、検挙と逃亡が繰り返されているのが現状です。

政界の超大物は刑務所には収監されずに、代わりに逮捕されるのは部下のひとりです。

彼は後に、ひっそりと死んでいくのです。

この映画の序盤の、結婚披露宴のシーンで登場人物の相関図を紹介する方法は非常に印象的でした。

この方法は、後に映画「ゴッドファーザー」でも用いられました。

黒澤監督は、この作品で繰り広げられる複雑な汚職事件のからくりを、観客には最初に簡潔に伝えたく、あえて結婚披露宴の場面を使ったそうです。

 

黒澤監督のハムレット作品・「悪い奴ほどよく眠る」

 

この作品は、黒澤作品の中でも群を抜いて悲劇感が高くなっています。

言い換えますと、まるでシェイクスピアの「ハムレット」と「ロミオとジュリエット」を連想してしまいます。

オープニングの結婚式の場面では、マスコミ関係者を狂言師にとらえて、登場人物を一気に説明してしまう斬新な方法をとっています。

この方法は、分かりやすく素晴らしいものです。

複雑な人間模様が織りなす汚職に関する内容ですので、登場人物の相関関係を、まずはじめにはっきりと観客が理解できないことには、ラストまでストーリーが不明瞭になってしまいます。

この作品に関しては、どの批評家たちもこぞってこのアイデアを褒めて評価しています。

実際に作品を見ている時は、作品の最初の流れがとても意味があるものとは思いません。

これは内部事情に詳しい人でない限り、ずっとわからないでしょう。

しかし、あのアイデアが冒頭になければ、これだけ複雑な人間関係が織りなすストーリーをわずか2時間で完全に伝えきることは不可能だったのだと思います。

結婚式では、妹思いの兄の存在が非常に印象的です。

ラストのエンドロールを見ていても、作品の流れを思い出しては心にぐっとくるものがあります。

ちょっとしたクレジットの入れ方や音楽の使い方で、監督の考えや雰囲気が伝わってくるものです。

私が黒澤監督さんに心酔する決め手は、このようなちょっとしたことでもあります。