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『蜘蛛巣城』(黒澤明映画第16作品あらすじと解説):マクベスを能の技法で表現した芸術的作品

1957年(昭和32年)1月15日に公開された映画『蜘蛛巣城』。

シェイクスピアのマクベスの世界観を能の技法で表現した芸術的な作品です。

この記事では、黒澤明監督の16番目の作品となる『蜘蛛巣城』をご紹介します。

映画『蜘蛛巣城』のあらすじ


時は波乱うずまく戦国時代の日本。

あるところに蜘蛛巣城という奇妙な名前の城がありました。

その城は配下の武士による裏切りによって窮地に陥りますが、主人公の鷲津武時と三木義明が見事に城を救います。

城主は2人をたたえ、ぜひ褒美を与えたいとの事で彼らを城に招待しました。

しかし2人の主人公は城に向かう道中の森で迷子になってしまいます。

そしてそこで奇妙な老婆に出会った鷲津武時と三木義明。

「2人はやがて北蜘蛛巣城と蜘蛛巣城の城主になる」

鷲津と三木は老婆から、そう予言されるのです。

 

映画『蜘蛛巣城』の解説

 

この作品、シェイクスピアのあの有名な戯曲『マクベス』が下敷きになっています。

シェイクスピアと黒澤明、イングランドと日本の天才作家が時代を超えて交じり合った、とても贅沢な作品です。

本作では「能」の表現や演出を全面的に取り入れるという斬新な演出技法が採用されています。

三船敏郎や山田五十鈴には事前に役の雰囲気にあった能を鑑賞させてイメージトレーニングをさせたといいます。

そして撮影では役者の顔をアップで撮るカットは避け、能のように全身での演技をカメラに収めることにこだわりました。

もともとは戯曲として舞台で演じられたこの原作・マクベス。

黒澤明監督は映画のスクリーンを舞台に上演しようとしたのかも知れませんね。

ちなみに三船敏郎が、矢を雨のように射られるシーンでトリックではなく実際に矢を射られた事から黒澤明さんに大激怒。

のちに怒りが収まらない三船敏郎さんは、散弾銃を持って黒澤明監督の家に押しかけたといったエピソードがあります。

しかし実際は矢にはワイヤーが仕込まれており、あらかじめ決まったところに飛ぶことになっていたそうです。

どう転んでも三船敏郎さんに当たることはない仕組みになっていたそうです。

 

映画『蜘蛛巣城』の感想

 

やはり長い歴史上演じ続けられる戯曲・マクベスを原作にしているだけあって、ストーリーの面白さは間違いありません。

しかもその名作の舞台をガラッと戦国時代の日本に大胆にアレンジし新しい名作を生み出した黒澤明監督の試みは当時としては斬新であったの一言に尽きます。

そしてこの作品の中で生み出された革新的な撮影技法や演出は、のちの日本映画に多大な影響を及ぼしたと言われています。

例えば、冒頭に霧の中から城が現れるシーンなんかは、どこかで見覚えがありませんか?

そうです、あの『ハウルの動く城』の冒頭で城が現れるあのシーンは、この映画にインスパイアされたという説が濃厚です。

そうして確かな爪跡を残した本作は、間違いなく日本の映画史、世界の映画史に残る名作です。

実際に世界の著名人にもこの作品のファンは多く、あの有名映画監督であるスティーブンスピルバーグ氏もこの作品の大ファンの一人です。

スピルバーグ監督が、はじめて観た黒澤明監督の作品は『蜘蛛巣城』だったそうです。

そしてスピルバーグ監督は『蜘蛛巣城』に対して、悪人も善人もしっかり描ききる人間賛歌をテーマとして貫いた黒澤明監督の作風に感動したと語っています。

『蜘蛛巣城』が従来の黒澤明さんの作品と大きく違う点は、エンターテイメント色よりも原作の「悲劇」をテーマとした作りになっているところにあります。

能を取り入れた新しい表現方法、そして悲劇の古典演劇を下敷きにした挑戦的なシナリオの組み合わせはエンターテイメントの枠を超えてた芸術作品になっています。

巨匠である黒澤明さんが初めて挑戦した芸術作品としての映画。

そこに注目して観ると、この映画をより深く味わって楽しむことができるはずです。

頭をからっぽにして楽しめるに足りて余りある従来のエンターテイメント要素、そしてそれを大きく上回って私たちを芸術の世界に誘ってくれる芸術的な演出技法を心ゆくまで堪能してください。