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『白痴』(黒澤明映画第11作品あらすじと解説):黒澤明監督が悩みに悩んで撮りきった魂の作品

1951年(昭和26年)5月23日公開された映画『白痴』。

この作品は、ドストエフスキー作品を敬愛する黒澤明監督が、全身全霊をかけて制作した作品とされています。

この記事では、黒澤明監督の11番目の作品となる『白痴』をご紹介します。

映画『白痴』のあらすじ

 


戦後の沖縄、主人公の亀田欽二は無実の罪で処刑されかけたことがキッカケで白痴、つまり重度の知的障害を患ってしまいます。

長い間病院生活を送っていた彼でしたが、あることがキッカケで沖縄とは真反対の北海道、札幌へ向かいます。

そんな彼は、北海道の写真館に飾られた那須妙子の写真を見て一目惚れをしてしまいます。

しかし、実はその妙子は政治家の妾・高級娼婦であったのです。

その後、欽二が妙子の家のパーティに参加をキッカケに、互いに心惹かれるようになった2人。

さらに、欽二が大野綾子という娘とであったことにより、ストーリーは動きはじめます。

綺麗で優しい心を持つ欽二はしだいにこの2人の女性に愛されて、妙子と綾子の女の戦い、そして濃厚な恋愛ドラマが展開されていきます。

 

映画『白痴』の解説

 

本作の見どころは、なんといってもドストエフスキーの名作文学を黒澤明さんがどう作品に仕上げるかにあります。

黒澤監督は、原作ではロシアだった舞台を北海道の札幌に移します。

舞台を北海道としることで、オリジナリティある『和製・白痴』として受け入れることができます。

どんな原作を下敷きにしても自分の色に変えてしまうところが黒澤明監督の凄さです。

人物の内面を描写するために顔のアップ撮影ではまばたきを禁止するなどの完璧主義な演技指導は本作でも冴えわたっています。

美しい白黒の雪のシーン、全編に漂う新劇を思い出させる演出、室内撮影の大胆な切り返しは黒澤監督の作品の他に類をみない独特の雰囲気を匂わせていて、どこか抽象的で芸術性さえ感じさせてくれます。

ちなみに本作は製作会社の意向から大幅にストーリーがカットされたという経緯があります。

完璧主義者の黒澤明監督は当然これを不服としたのですが、最終的に監督側が折れて泣く泣くカットしたストーリーを字幕で説明するという黒澤作品らしからぬ屈辱的な演出をすることになったのです。

4時間以上あったという幻のフィルムは今では誰にも観ることができません。

 

『白痴』は黒澤明が全身全霊をかけて制作した作品

 

やはりこの作品、『白痴』が原作であるところが良くも悪くも作品全体に大きく影響を与えているように思えてしまいます。

中学時代から大のドストエフスキー愛読家であった黒澤明さん。

「昔からずっと映画化したかった作品だった」と語ったこともあり、撮影のずいぶん前から構想があたたまっていたのではないでしょうか。

『蜘蛛巣城』のように「マクベス」の時代設定を日本の戦国時代に切り替えるようなダイナミックなアレンジは加えられていないません。

おそらく黒澤監督の中でドストエフスキーに対するリスペクトがあり、なるべく原作に近い設定で映画化したいという気持ちがあったのではないかなと感じました。

舞台を、日本で1番ロシアに近い場所・北海道にした事からもそれは伺えます。

ちなみに監督は撮影のために7回以上原作を読みなおし撮影に挑むも、思い通りにならない精神的な重圧からナイフで自身の腕を傷つけようとさえしたそうです。

とはいえ、やはり人は追い詰められ葛藤するととんでもないパワーを発揮するのものです。

黒澤明さんは敬愛する原作へのリスペクト、そして過酷な撮影と人間関係に追い詰められて本作を撮りきりました。

そのためか、黒澤明監督自身の執念が乗り移ったようなカットを随所に感じられます。

昔から誰よりも原作の『白痴』を愛し、影響されてきた監督だからこそ、絶対にこの作品を中途半端なものにはできないと想いは強かったようです。

三角関係の恋愛ドラマ、そしてそのドラマをめぐる登場人物たちの細かな心理描写、女と女の戦い。

天才映画監督・黒澤明が悩み抜いて完成させた本作は、見どころ満載の名作になっています。